2025年5月30日に衆議院本会議で「行政書士法の一部を改正する法律案」が可決されました。
この中には補助金申請支援は行政書士の独占業務とする内容が明記されています。
今までは補助金申請といえば事業計画の作成に慣れている「中小企業診断士」、「民間コンサルタント」、「補助金申請代行業者」、「税理士」などが多く受けていました。
今後はそれらができなくなるってことです。(税理士は行政書士にもなれるので影響はそれほどありません)
今回はこの改正について詳しく見ていきたいと思います。
改正行政書士法とは?
まずは今回の話の前提となる改正行政書士法について見ておきましょう。
成立までの経緯と背景
日程 | 主要トピック |
---|---|
2025年5月30日 | 衆議院で可決 |
2025年6月6日 | 参議院で可決 |
2026年1月1日 | 改正法施行 |
2026年1月1日からの施行となります。
決まって翌年から施行というのはかなり早い法案ですね。
改正法は①行政書士の使命・職責の明文化、②特定行政書士の業務範囲拡大、③報酬を得る行政手続き代行の明確な独占化など五つの柱で構成され、その中に「補助金申請書類の作成」が含まれます。
背景には デジタル化による手続き複雑化 と 無資格コンサルによるトラブル増 があり、資格者によるガバナンスの強化が狙いです。
各種補助金でもコピペ申請書などをする補助金申請代行業者が問題になっていました。
また、高額成功報酬も話題に。。。
最近の補助金申請書類には支援者名を書く欄が設けられるなどの対策も実施されていました。
何が変わる?補助金申請書類「有償作成」の独占化
それでは具体的にどのように変わるのでしょう?
改正前
行政書士法19条で「官公署提出書類の作成」は行政書士の業務と定めつつ、補助金申請はグレーと認識されていました。
補助金の申請は官公署へ提出ではなく、事務局なのでセーフという見解を述べる人なんかも多かったですね。
そもそも補助金書類は代筆という概念がなく、公募要領にも「自身で書く」ように書いてあるものもありますしね。
私も駆け出しの頃、所属していた県の中小企業診断士協会に補助金申請業務の行政書士法19条について見解を訪ねたところ
という回答を頂きました笑
そんな感じだったので「中小企業診断士」、「民間コンサルタント」、「補助金申請代行業者」、「税理士」などの代筆が横行。
ちなみに私はグレー業務はやりたくないですし、代筆したら事業計画を作る本来の意味はあまりないので、代筆は基本やらず、添削やアドバイスのみとしていました。
改正後(2026年11月)
改正後は報酬を得て補助金申請書類を作成する行為は行政書士(または行政書士法人)に限定。
また、名義貸しや無資格代行には罰則強化されます。
報酬の名目(謝礼・成果報酬・会費など)を問わず「有償」であれば独占業務に該当します。
商工会議所や商工会など会費が発生する機関の補助金申請書類の代行も多いと思いますが、このあたりはどうなるんでしょうか・・・
ノルマがある機関も多かったんですよ。。。
確定申告書作成のような扱いになるのかな?このあたりは今後明らかになってくるかと思います。
なお、改正後の行政書士でも「補助金の事業計画書は事業者自ら作るもの」という前提がありますので、丸投げで全部を作成するというのはグレーかと思われます。
それをやっていると事業者のためにもならないですしね。
違法の線引はどこ?アドバイス・添削は可能?
それでは今回の改正行政書士法施行後の違法の線引はどこになるのかを考えてみましょう。
サポート内容 | 2026年以降の扱い | 根拠 |
---|---|---|
事業計画の助言・赤入れ | OK(代筆でなければ) | 「書類作成」の主体が事業者本人である場合は違法性なし。 |
・書類を作成し、企業に押印や提出だけ求める ・下書きのみ作成 | NG(違法の恐れ) | 実質的に行政書士業務を代替するため。 |
電子申請の代理送信 | 行政書士のみ | 代理提出は独占業務に含まれる。 |
事業計画だけ請け負えば良いっていう意見も目にしましたが、行政書士の独占業務の範囲には、「権利義務又は事実証明に関する書類の作成」が含まれていることから、事業計画だけの作成でも問題となりそうです。
そもそも「補助金の事業計画書は事業者自ら作るもの」という前提がありますしね。
ただし、助言や添削は問題ありません。
改正後に広告やWEBページなどでキーワード「補助金申請代行」を謳う場合は要注意。
代行=有償作成・代理提出を想起させるため、行政書士資格の有無を明示する必要があります。
そのような謳い方をする業者は行政書士法を理解していない可能性も高いです。
ですから事業者からすれば避けた方がトラブル回避になるかと思います。
テンプレートを配布するのは違法?
参加費を受け取ってセミナーを実施。
テンプレートを配布し自社で記入してもらう形や、テンプレートを販売する形式はセーフでしょうか。(私の見解です)
ただし「記入代行」まで請け負うと違法となります。
助成金は社労士の独占業務――混同しないための整理
なお、ちょっとややこしいですが、厚生労働省の助成金ははじめから社会保険労務士の独占業務となっています。
厚生労働省の各種パンフレットにも「助成金の申請手続き業務は社会保険労務士(社労士)の独占業務」と明記されていますね。
補助金と助成金似ていますので混同しないようにする必要があります。
基本的に厚生労働省系は助成金となります。
区分 | 所管省庁 | 有償書類作成の独占資格 |
---|---|---|
補助金(例:ものづくり補助金) | 経済産業省・中小企業庁 | 行政書士(2026年~) |
助成金(例:業務改善助成金) | 厚生労働省 | 社会保険労務士(従来通り) |
すでに独占業務と明記されている助成金も申請代行している業者もあるのですが・・・
実務への影響と対応チェックリスト
それでは依頼する側の事業者、依頼される側の士業、民間コンサルタントなどが考えるべきことはどのようなことがあるのでしょう。
企業(補助金を利用する側)
まずは補助金を利用させる側の考えたいポイントをまとめると以下の通り。
チェック項目 | 今すぐやること |
---|---|
依頼先の資格確認 | 行政書士登録番号・所属会確認 |
採択率を確認 | 過去の採択率を確認 |
見積書の名目確認 | 「書類作成料」「成功報酬」など有償部分の内訳を明示させる |
アドバイス契約の線引き | 添削のみの依頼も |
改正後は補助金業務を依頼をするなら行政書士となりそうです。
ただし、行政書士は許認可等の書類作成のプロであり、経営のプロではありません。
そのため、過去の採択率はあまり高くないのが実情です。
そもそも多くの補助金の審査は中小企業診断士が行っています。
共通言語のある人たちの書いた書類の方が採択されやすくて当然なんですよ。
どの行政書士に依頼するのかというのも重要となりそうです。

個人的には事業計画は自分たちで作らないとあまり意味はないと考えています。
ですから少なくともその部分は自分たちで作ることをおすすめします。
事業構想の段階からの支援や添削、ブラッシュアップ等の助言は当事務所でも承っております。

中小企業診断士・税理士・民間コンサル・代行業者
今まで補助金申請代行を多くやってきた「中小企業診断士」、「民間コンサルタント」、「補助金申請代行業者」、「税理士」はどうするとよいのでしょう?
考えられるのは以下。
選択肢 | メリット | デメリット |
---|---|---|
行政書士資格の追加取得 | ワンストップ化 | 合格まで約800時間の学習負担 |
アドバイザリー特化 | コア業務・上流支援に集中 | 書類作成収入が減少 |
行政書士との連携 | 法的リスクを回避 | 名義貸しレベルだとアウト? |
一番確実なのは行政書士資格の追加取得でしょうね。

行政書士との連携という意見もありますが、名義貸しみたいなレベルだとアウトの可能性が高そうです。
行政書士がその名において受任した業務を、行政書士ではない者に有償で委任することは、行政書士法第19条1項及び同法施行規則第4条違反になります。
あらかじめ業務の線引を明確化しておき直接事業者と契約する必要がありそうです。
また、WEBページや名刺、チラシ、看板等に「補助金申請代行」的な文言がある場合は、施行前に修正しておきましょう。
行政書士
行政書士からすると大きなビジネスチャンスとなりそうです。
前述したように行政書士の過去の補助金採択率はあまり高くないのが現状。
その中で高い採択率が実現できるようになれば差別化要因とできそうです。
まとめ
今回は「2026年施行の行政書士法改正で「補助金申請代行」はどう変わる?」と題して補助金のルールが変わるよって話をみてきました。
まとめると
・「補助金申請代行」=行政書士独占(2026年~)という新ルールを正しく理解。
・助成金は社労士独占のまま。
・士業・コンサルはダブルライセンスや新たなビジネススキームを構築。
です。2026年1月までにしっかり準備をしておきましょう。
なお、個人的な見解として今回の改正は補助金申請を希望している事業者のためにはあまりならないと考えています。
不正な支援をする事業者を取り締まりたいのはわかりますけどね・・・