うちが使っているITベンダーも、顧問のコンサル会社も、SaaSもAIに置き換わって消えるんでしょうか
先日、ある社長さんから問われました。
少し前まではSF映画の話でしたが、いまや経営判断の真ん中にある問いなのです。
それが現実になろうとしています。
2026年5月11日にOpenAIが「OpenAI Deployment Company(通称DeployCo)」の設立を発表したのです。
40億ドル、日本円にしておよそ6300億円の規模で、コンサル会社のTomoroを買収し、企業の中にAIエンジニアを送り込む新会社。投資家にはマッキンゼー、ベイン、キャップジェミニといった世界の名だたるコンサル・SIerが名を連ねています。
「SaaSの死」「AI SIer なくなる」「AI コンサル なくなる」というキーワードが、いよいよ現実の経営課題として降りてきた瞬間でした。
結論を先にお伝えします。
SIerもコンサルも大きく変化しなければならない可能性が大です。
そして、その変化の波は、実は大企業だけでなく中小企業や小規模事業者の経営判断に押し寄せてきます。
独立前はSIer会社の管理職だった私も他人事には思えない今回の話。
詳しく見ていきます。
なぜ「AI会社」が、自らコンサル会社を作ったのか
まず、起きた事実を整理させてください。
OpenAI Deployment Companyとは何か
OpenAIが設立したDeployment Companyは、ChatGPTをはじめとするAI製品を「売る」ための会社ではありません。
買収したTomoroには、テスコ、ヴァージン・アトランティック、レッドブルといった一流企業のAI導入を成功させてきた150人ほどのエンジニアが在籍しており、彼らは「Forward Deployed Engineer(FDE)」と呼ばれます。
直訳すると「最前線配備エンジニア」。顧客企業の中に物理的に入り込み、業務フローを設計し直し、AIを基幹業務に組み込む役割を担います。
ここまで読んで、違和感を覚えませんか。
これは、これまでマッキンゼーやアクセンチュアが、そして日本でいえば野村総研やNTTデータが担ってきた仕事と、ほぼ同じです。
にもかかわらず、その既存プレイヤーたちが、自らを「中抜きする可能性のある」新会社に出資している。
米経済メディア「Axios」は、これを「自分たちの中抜きを、自分たちのお金で手伝うことになった」と皮肉まじりに表現しました。
なぜ、こんな奇妙な構図が成立するのでしょうか。
答えは単純です。
OpenAIもAnthropicも、AIモデル単体ではもう儲からないからです。
ChatGPTの月額20ドル課金は急成長していますが、これは消費者市場。
本当の利益が眠っているのは、企業が業務全体をAIに置き換える「業務の置き換え」マーケットです。
野村證券のレポートが指摘するように、SaaSはユーザー数に応じた定額課金で稼いできましたが、「人」が減ってAIが働くなら、ユーザー数で課金しても伸びません。
だからこそ、処理量や成果に応じた従量課金へ、そして業務そのものを請け負うサービスへ、AI企業は商売の場所を移そうとしています。
Anthropicも5月初旬に、Blackstoneらと組んで類似の企業向けAIサービス会社を設立すると報じられました。
これは個別企業の戦略ではなく、業界全体の地殻変動です。
つまり、OpenAIのDeployCo設立は、「AI企業がコンサルティング業界そのものを獲りに来た」という宣戦布告に他なりません。
FDEとは「AIに詳しい常駐SE」ではない
FDEという言葉を聞くと、「AIに詳しいエンジニアが企業に常駐するのか」と思うかもしれません。
しかし、それだけでは少し浅い理解です。
OpenAIの説明では、FDEは汎用製品から始めるのではなく、企業の現実の複雑さの中で個別のAIシステムを構築する役割とされています。
そこには、セキュリティ、権限管理、ガバナンス、コンプライアンス、業務統制、レガシーインフラなどが含まれます。
つまり、FDEの仕事は「このAIツールを使ってください」と説明することではありません。
現場の人に話を聞く。
業務フローを見る。
どこで二度手間が起きているかを探す。
どのデータをAIに渡してよいかを整理する。
既存システムとどうつなぐかを考える。
社内ルールや承認フローまで含めて、実際に動く仕組みにする。
これがFDEです。
OpenAIの東京採用ページでも、FDEは顧客とともにフロンティアモデルの本番展開を主導し、発見、技術スコープ設定、システム設計、構築、本番展開を担う職種として説明されています。
成果は、本番利用、測定可能な業務インパクト、評価に基づくフィードバックで測られるとされています。
ここに、従来型のSIerやコンサルとの違いがあります。
資料を作って終わりではない。
PoCをやって終わりではない。
動くところまで持っていく。
さらに、その学びを製品やモデルの改善にも返す。
つまり、現場実装とプロダクト開発がつながっているのです。
SaaSの死は何を殺したのか
ここで、2026年前半に起きた経済事件を振り返ります。
2月初頭、AnthropicがClaude Coworkという業務自動化ツールを発表した直後、全世界のソフトウェア株から1兆ドル、日本円で150兆円規模の時価総額が、わずか1週間で吹き飛びました。
日本でも、マネーフォワード、Sansan、freee、ラクスといった代表的なSaaS銘柄が、たった1日で10%以上下落しました。世にいう「Claude Crash」、別名「SaaSpocalypse」です。
このとき市場が突きつけられたのが、「SaaSの死」という概念でした。
ただ、誤解されやすいので、慎重に分解させてください。
「SaaSの死」は、SaaSというサービスがすべて消滅する、という意味ではありません。
死ぬのは、次の3つです。
GUI(人間用の画面)の死
ひとつ目は、「GUI(人間用の画面)」の死。
これまでSaaSは、人間がログインし、画面を見て、ボタンを押すことを前提に設計されてきました。
しかしAIエージェントは画面を必要としません。
裏側のAPIを直接叩いて、人間が10クリックで終わらせていた作業を、ものの数秒で片付けます。
シート課金の死
ふたつ目は、「シート課金」の死。
Salesforceの元共同CEOが立ち上げたSierraという会社は、すでに「会話1回ごとに2ドル」という従量課金モデルを展開しています
社員が10人いる会社が「10人分」の利用料を払うのではなく、AIが処理した件数分だけ支払う。
これが新標準になりつつあります。
ID課金で守られた利益構造の死
みっつ目は、「ID課金で守られた利益構造」の死。
Salesforce自身が、自社製品Agentforceで成果報酬モデルへ舵を切りました。
王者すら、これまでのビジネスモデルを破壊しなければ生き残れないと判断したのです。
すぐに切り替えられるとは思えない
ただし、すべてのSaaSがすぐに死ぬとはならないでしょう。
SaaSをAIエージェントで完全に内製化するには、業務の正確性に加えて、セキュリティ・ガバナンス・監査ログといった統制要件が重く、各社が個別に設計・実装・運用する負荷が大きいです。
ですから当面の間はAIが組み込まれたSaaSを活用する選択肢が現実的です。
つまり、SaaSが「全部消える」というのは今の時点で誇張なのです。
Gartnerは「2030年までに、ポイントソリューション型SaaSの35%がAIエージェントに代替・吸収される」と予測しています。
残り65%は生き残ります。
ただし、形を変えて。
なぜSIerもコンサルも「死なない」のか?
ここから、本題に入ります。
「人月商売は終わる」「SIerは死滅する」
実際、生成AIによるコーディング能力の進化は凄まじく、楽天は社内開発コストを最大90%削減したと発表しています。
日立もGitHub Copilotの導入で特定業務の99%のコード生成率を達成しました。
これだけ見ると、SIerもコンサルも、明日には倒産しそうに見えます。
ところが、2026年1月にキーマンズネットが行った業界調査は、興味深い事実を浮き彫りにしました。
「SIerは不要になる」と最も強く信じているのは、ユーザー企業ではなく、当のSIerやコンサル会社自身だったのです。
回答した8割以上のパートナー企業が「従来の人月商売や技術提供だけでは通用しなくなる」と答えています。
一方、ユーザー企業側に「AIで内製化する際の障壁は何か」と尋ねた調査では、こんな回答が並びました。
「システム全体の設計思想(アーキテクチャ)の一貫性を保つスキルの欠如」が51.5%。
「AIが出力した結果の正誤や、ビジネス上の妥当性を判断する目利きの不在」が43.3%。
「レガシーシステムとの複雑な統合の壁」が40.4%。
ここから、3つの不都合な真実が見えてきます。
AIは責任を取れない
会計、労務、法務といった領域では、毎年のように制度が変わります。
私も例年法改正セミナーをやっていますが、その度のセミナー内容を変えないといけないほど内容がかわってくるんですよ。
これらに対して「AIが処理しました」では監査も行政も通りません。
説明し、署名し、最終責任を負う「人間」と「法人」の存在が、依然として必要です。
このあたりは自動運転が日本でなかなか認可されない部分と似ていますね。
AIに指示を出せる人が足りない
日本のホワイトカラー職場の多くで、「Excelの関数すら満足に使えない」社員が珍しくないのが現実です。
生成AIに正しい指示を出す(プロンプトを書く)には、業務の構造を言語化する能力が必須ですが、これは長年の業務経験とドメイン知識の両方が必要となります。
人材不足は否めません。
レガシーが鎖になっている
中堅以上の会社にとって、20年前のExcelマクロや、誰も読めないAccessデータベース、技術者が少なくなったCOBOLなど、業務の「鎖」であり、同時に「資産」でもあります。
これをAIに学習させて置き換えるには、その前段階で膨大な棚卸し・再設計が必要です。
SIerもコンサルもすぐ死なないと私が申し上げる根拠は、ここにあります。
逆にこの置き換え作業はSIerもコンサルにとってかなりのビジネスチャンスとなるでしょう。
生き残れるかどうかは・・・
ただし、生き残るのは「死なないSIer・コンサル」だけです。
人月単価で工数を売ってきた旧来の労働集約型プレイヤーは、確実に淘汰されます。
フロンティア・マネジメントのレポートが端的に指摘しているとおり、「これまで10億円かけていた基幹システム刷新が、AIの活用により1億円で可能になった時、SIerの売上は理論上9割減少する」のです。
生き残るのは、AIをオーケストレートする「指揮者」、ガバナンスを設計する「総合商社」のような役割、業界特化型の深いドメイン知識を持つ「専門医」だけ、ということになります。
中小企業・小規模事業者は、何を準備すべきか
ここからが、私が中小企業診断士として最も伝えたい部分です。
大企業の経営判断と、中小企業の経営判断は、似て非なるものです。
OpenAIのFDEがうちの会社に来てくれるわけではない。大企業向けの話でしょう
そう感じる方も多いと思います。
その見方は、半分正しいです。
しかし、中小企業に無関係ではありません。
むしろ、数年遅れでこの流れは必ず下りてきます。
中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金2026」が公募されているように、国も中小企業のAI導入を後押ししています。
中小企業がAI時代に備えるための、現実的な3つの問いをお示しします。
その業務、本当に「ソフトウェアで動いている」ことに気づいていますか
意外かもしれませんが、これが最重要です。
中小企業の経営者と話していると、「うちの業務はアナログだから、AIなんて関係ない」とおっしゃる方が今でも多くいらっしゃいます。
しかし本当にそうでしょうか。
請求書は郵送で送っていても、それを受け取った取引先の経理は会計ソフトにスキャンして取り込んでいます。
手書きの勤怠表は、社労士事務所で給与計算ソフトに転記されています。
つまり、自社で完結する業務はアナログでも、取引先や士業を含めたバリューチェーン全体は、すでにソフトウェアで動いている。
だからこそ、取引先や顧問先がAI導入を進めると、自社も連鎖的に影響を受けます。
具体的な行動:自社の業務フローを「人が画面を見て操作している作業」と「人が判断している作業」に分けて棚卸ししてください。
前者の多くは、3年以内にAIに置き換わる可能性があります。
「シート課金SaaS」を払い続ける合理性が、自社にありますか
うちは中小企業だから、月数千円のSaaSをいくつか契約しているだけ
そう思っている経営者ほど、見直し余地があります。
会計ソフト、勤怠管理、顧客管理、請求書発行、契約書管理、グループウェア。
10人の会社でも、気がつけば10種類前後のSaaSを契約しているケースが珍しくありません。
1ユーザー月額1,500円のサービスを10人分、10種類契約していれば、年間180万円です。
問題は金額そのものではなく、「これらすべてが、AIエージェント時代に必要かどうか」を見直したことがあるかどうかです。
Anthropic ClaudeやChatGPTのようなAIアシスタントが、自然言語の指示一つで複数のSaaSをまたいで作業を完結させる時代に入ってきています。
具体的な行動:契約中のSaaSを一覧化し、「業務の根幹で代替不可能」「あれば便利」「惰性で契約継続」の3つに分類してください。
3番目のものは、来年の更新時に解約を真剣に検討する価値があります。
従業員のAIリテラシーへの投資を、後回しにしていませんか
これが最も難しく、最も差がつくポイントです。
中小企業の社長さんとお話ししていて、よく耳にするのが
うちの社員はパソコンも苦手だから、AIなんて無理
というセリフ。
お気持ちは分かります。
が、これは経営判断として致命的に間違っています。
なぜなら、AIを使いこなせない従業員は、5年後に「市場価値ゼロ」になる可能性が高いからです。
残酷な言い方ですが、これは私が現場で見ている現実です。
一方、AIを使いこなせる従業員は、一人で10人分の仕事をこなせるようになります。
両者の労働生産性の差は、給与の差に直結し、いずれは離職リスクと採用難の差になって、会社の存続を揺さぶります。
具体的な行動:まず社長自身がChatGPTやClaudeを月額20ドル課金で使い始めてください。社員に勧める前に、自分が業務でどう使えるかを体感する。それから、社内ガイドライン整備と、若手社員1〜2名をAI推進担当に指名する。
これだけで、3年後の景色が変わります。
私も生成AI関連のセミナーをやったり、導入支援をしたりしますが、実際使ってみると否定的な認識を大きく変えられる社長が多いですね。
まずは一般的な生成AIを使ってみましょう。
AIエージェントに関してはリスクも大きいのでその部分を踏まえて検討してください。

従業員がAI時代に生き残るために必要なこと
ここまで会社の話をしてきましたが、生成AIセミナーをするとかなりの確率で質問される従業員視点の話を加えさせてください。
「AIに仕事を奪われる」という不安は、もはやSFではなく、日常会話です。
事務職、経理、人事、営業事務、コールセンター、デザイナー、ライター、プログラマー、士業、コンサル。
挙げ始めるとキリがありません。
さらにフィジカルAIが進展すれば、現場職も含めてほとんどの業務が置き換わる可能性を秘めています。
時代に生き残る人の特徴は、極めてシンプルです。
AIを使う側になれる人です。
ではどういう人がAIに使う側に向いているのでしょう?
一言で言えば
自分の仕事を、感覚でなく自分の言葉で説明できる人
なぜか。AIに何かを任せるには、業務を分解し、手順を言語化し、判断基準を明示する必要があるからです。
日々の業務をなんとなくこなしているだけの人は、AIに「お願い」できません。
一方、自分の仕事を構造として理解している人は、AIを「優秀な部下」として使いこなせます。
これは、ベテランの有利不利の話ではありません。
むしろ若手にチャンスがある領域です。「20年経験があるから、なんとなく分かっている」のは、AI時代には武器になりません。
「5年しか経験はないが、業務を再現可能なマニュアルに落とし込める」ほうが、はるかに価値があります。
いきなり変わるのは難しいでしょうが、情報や思考を整理し、「構造化」するスキルを身につけるのがオススメです。
こちらの本がわかりやすいですよ。
自社専用FDEになろう
最終的にはAIを使う側だけでなく、自社専用のFDEになってしまうのを目標にしましょう。
自社の業務を理解していて、AIを使って業務を少しずつ変えられるということです。
経理担当者でも構いません。
総務担当者でも構いません。
営業事務でも構いません。
製造現場のリーダーでも構いません。
大切なのは、AIに詳しいことではありません。
業務の流れを説明できることです。
どの書類が、誰から、いつ来るのか。
誰が確認するのか。
どこで止まるのか。
どの作業が二度手間なのか。
どの情報は外に出してはいけないのか。
これらを把握し、言語化できる人が、AI時代には強くなります。
これが従業員にとっての生存戦略となりそうです。
まとめ
OpenAIのDeployment Company設立をきっかけに、SIerやコンサル業界の死を予言する声が増えました。
SaaSは死ぬ、AIでSIerはなくなる、AIでコンサルはなくなる。刺激的な言葉が並びます。
実際無くなってしまう企業も多いでしょう。
しかし、AIには取れない責任を担う者、AIを指揮する者、業界に深く根を張った専門家、レガシーを解きほぐす者は、むしろ価値を増します。
そして中小企業にとっての本当のリスクは、「AIに仕事を奪われること」ではなく、「AIを使う競合に、価格と納期で勝てなくなること」です。
これは外圧であり、自社の選択で防御できる事象ではありません。
私は岐阜の片隅で、経営者の方々と対話しています。
10年前、クラウド会計やクラウド給料を勧めても「うちは紙の方が安心」と仰っていた方々の何割かは、すでに事業を畳まれました。
AIについて、いま同じ選択をする経営者が増えないことを、心から願っています。
「AIで何が変わるのか」を考えるのは、もう十分です。
今は「自社の何を変えないと、生き残れないのか」を考えるフェーズです。
最初の一歩は、社長ご自身がAIに月20ドル払うこと。
それだけで、見える景色がまったく変わります。今日、ぜひ始めてみてください。

