「AIで業務が変わるのはわかるけれど、本当に人を減らしても大丈夫?」──2025年6月、飲食テック企業ダイニーが全社員約2割(30〜40人)に退職勧奨を実施したニュースは、中小企業、ベンチャー、スタートアップ経営者、勤務者に大きなインパクトを与えました。
しかもダイニーの業績は前年比2倍成長。さらには2024年9月には74.6億円調達に成功しているという・・・
経営難ではなく「AI時代へ組織を再設計するため」の人員削減だったとCEOは語ります。
とはいえ日本で雇用を切るハードルはかなり高いもの。
整理解雇の4要件を満たさなければ不当解雇リスクがあり、退職勧奨にも細かな実務ルールが存在します。
今回はSNSでかなり話題のレイオフをわかりやすく解説していきます。
ダイニーのレイオフとは
まずは今回の話の前提となるダイニーのレイオフ(厳密には退職勧奨とのこと)についてみていきましょう。
事実関係
2025年6月末、社員約200人のうち2割に退職勧奨。
対象はエンジニア・コーポレート中心。
営業職は維持とのこと。
売上は前年比2倍と好調で「経営難ではない」とのこと。
2024年9月に74.6億円調達していますので資金繰りの問題でもないでしょう。
背景は生成AIによる業務再構築と「生産性重視の組織」への転換
海外で増加中のAIの影響のリストラ
海外ではAI活用で「人を減らす=競争力強化」という潮流は、どんどん広まっていますね。
日本でも大手企業の富士通やパナソニックが早期退職などを実施しています。
今後広がってくる可能性がありそうです。
こちらの記事で事例を取り上げています。

レイオフ、整理解雇、退職勧奨、リストラ《用語解説》
まずは今回の話を理解するためにいくつかの用語を理解しておく必要があります。
レイオフとは
レイオフは日本語にすると「一時解雇」のことを指します。
日本ではあまり聞きませんが、アメリカなどではよく実施されていますね。
大きなポイントは「一時」であるということ。
業績回復後に再雇用を前提とした解雇となります。
整理解雇とは
似た言葉で整理解雇というものがあります。
日本ではこちらの方が一般的ですね。
経営上の必要性を理由に、業績不振など会社都合で行う解雇となります。
こちらもレイオフと同じく従業員の雇用を終了するというものですが、再雇用を前提としない解雇。
退職勧奨とは
今回のダイニーは「レイオフ」や「リストラ」と報道されている場合もありますが、厳密には退職勧奨とのこと。
ダイニーのCEOが書いたnoteのタイトルが「レイオフを伝える仕事」だったのも大きいとは思いますが・・・
退職勧奨とは会社が労働者に「任意での退職」を打診し、合意の上で雇用契約を終了させる手続きのこと。
解雇ではなく合意退職となります。
リストラとは
一番一般的な言葉がリストラでしょう。
リストラの正式名称は「リストラクチャリング(restructuring)」
事業の再構築の意味あいが大きいので、厳密には解雇だけの話ではないんですよ。
ただし、一般的には整理解雇と同義として捉えている方も多いと思われます。
整理解雇には条件がある
今回のダイニーの件でよく見かけた意見として「4要件を満たしていないから無効」というものがありました。
そのあたりも整理してみましょう。
4要件とはおそらく「整理解雇の4要件」のことを指していると思われます。
整理解雇をする場合に判例上は「整理解雇の4要件」を満たさないと無効になりやすいと言われているんですよ。
ちなみに整理解雇は法律で直接規定されておらず、裁判例の蓄積で要件が整備された“判例法”です。
社内規程だけでは不十分だったりします。
整理解雇の4要件
整理解雇の4要件は以下の通り。
要件 | 概要 | 典型判例 |
---|---|---|
①人員整理の必要性 | 経営悪化など客観的根拠が必須 | 東洋酸素事件(最判1979) |
②解雇回避努力義務 | 希望退職募集・配置転換等を尽くす | 富士重工業事件(東京高判1996) |
③被解雇者選定の合理性 | 公平な基準と透明なプロセス | 長崎造船事件(長崎地判1998) |
④解雇手続の妥当性 | 労組・従業員への説明協議 | エース損保事件(最判2001) |
ただし、近年は「4要件→4要素」へと総合考慮化し、必ずしも全要件を形式的に満たす必要はないとする判例も増えています。
ただし、「①と②が甘い整理解雇は9割以上が無効」と言われます。
まずは数値で経営悪化を示し、解雇回避策を記録に残すことが肝心だったりします。
退職勧奨の条件とは
前述したようにダイニーの今回の話は厳密には「退職勧奨」とのこと。
それでは退職勧奨に条件はあるのでしょうか?
退職勧奨は4要件は適用外
結論から言えば退職勧奨は合意退職です。
そのため整理解雇の4要件は基本的に適用外です。
ただし、退職勧奨でも「事実上の強制」や錯誤があれば違法な退職強要として損害賠償リスクが生じます。
また、退職が無効になった判例なんかもあります。
そのようなケースだと整理解雇の4要件と同様なことが行われているのかも判断材料になる可能性もあります。
一般的に以下の要素があるのかが適法ラインと言われていますね。
強要・脅迫の禁止:「辞めないと評価を下げる」等はNG
合理的理由の提示:業務量減少など客観的事実
検討期間の付与:即答を迫らない
書面交付:提案内容・退職条件の明示
整理解雇と退職勧奨の違い
整理解雇と退職勧奨の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | 整理解雇 | 退職勧奨 |
---|---|---|
法的性質 | 使用者の一方的解雇 | 労使合意による退職 |
適用要件 | 4要件を満たす必要 | 合意形成・強要禁止 |
リスク | 不当解雇→無効・復職 | 退職強要→損害賠償 |
メリット | 期限内に確実に人員削減 | 訴訟リスクが比較的低い |
デメリット | 訴訟・労基署申告の危険 | 合意に至らない可能性 |
ダイニー事例で4要件を検証
それでは今回のダイニーの事例を整理解雇の4要素で検証してみましょう。(ダイニーのケースは退職勧奨なので本来関係ないのですが)
①人員整理の必要性
- 売上は増加中で「経営難」を証明しにくい。
- ただし「AI導入で業務不要」を合理性の根拠と主張。
- 判例では「生産性向上のみ目的」は不可とされる傾向にあります。
②解雇回避努力義務
- 採用凍結やAI活用で省力化を先行実施
- 希望退職の募集有無が公開情報にない点はリスク。
③選定の合理性
- エンジニア・コーポレート部門を中心に選定。業務代替可能性での基準は一定の合理性がある。
④手続の妥当性
- 退職勧奨形式で個別面談を実施し説明したとCEOが公表
- 労組との協議情報は未公開。
まとめ
ダイニーは「退職勧奨」を採用し訴訟リスクを低減。
ただし整理解雇4要件の①と②を満たす客観データが不足しており、もし「解雇」だった場合はかなりハードルが高かったと考えられます。
中小企業の実務フロー
私も会社員のころにリストラを断行した経験がありますが、かなり大変でした。。。
「人員削減=コスト削減」ではなく、戦略再構築とセットで実行することが社内外の納得感を高めます。
本当の意味でのリストラ(リストラクチャリング)ですね。
具体的には以下の項目を実施すると良いでしょう。
経営指標の把握
- 売上・利益・キャッシュフロー悪化を数値化
- 代替手段(出向・配置転換)の効果試算
社内外ステークホルダー説明
- 労組・従業員代表へ説明→議事録保存
- 金融機関・主要取引先へ早期共有
希望退職/退職勧奨の設計
- 募集人数・対象部門・優遇条件を決定
- エントリーシート・FAQを準備
整理解雇を検討する場合の4要件チェック
- チェックリスト形式で要件充足を確認
実施後フォロー
- 退職者への再就職支援
- 残留社員のモチベーション維持施策
まとめ
今回は「AIでレイオフ。ダイニー騒動で注目!整理解雇4要件と退職勧奨を解説」と題して退職勧奨や整理解雇について解説しました。
生成AIの浸透で「雇用は不変」という前提が崩れつつあります。
ダイニーの今回の件はその走りになりそうな予感・・・。
とはいえ日本の法制度では、整理解雇4要件と退職勧奨の適法ラインを外すと高い訴訟リスクが待っています。
まずは以下の3ステップを検討してみてください。
今すぐできる3ステップ
・労務・法務専門家に早期相談し、訴訟リスクを最小化
・自社の損益・業務フローをAI時代視点で再点検
・退職勧奨マニュアルと整理解雇4要件チェックリストを整備
