生成AIは生産性を爆発的に引き上げる一方で、スキルギャップが拡大すれば“リストラ加速装置”になり得ます
中小企業こそ再配置・リスキリング・アウトソーシングの三位一体で「雇用の軟着陸」を設計することが急務です。
今回は中小企業の生成AI導入でリストラを防ぎつつ生産性を上げる具体策について考えて見たいと思います。
生成AI関連のリストラが続出中
昨今、大手を中心に生成AIに絡んでいるのでは?と言われるかなり大規模なリストラが多発しています。
Klarna:AIチャットボットで700名削減
スウェーデン発フィンテックの Klarna は、AIチャットボットの導入により 実質 700 名分の業務 を自動化し、1 年で従業員を 5,000 人 → 3,800 人 へと縮小しました。
AIアシスタントが従業員700人の業務を代行し、平均解決時間を11分からわずか2分に短縮したと述べた。広告 · スクロールして続行この広告を報告する「約12カ月前、社内の現役職は約5,000人だったが、現在では約3,800人にまで減っている」とセバスチャン・シミアトコウスキーCEOはインタビューで語り、人員削減はほぼすべて解雇ではなく自然減によって達成されたと付け加えた。「9月以来、採用活動を行っていないため、会社はどんどん小さくなっている」と同氏は付け加えた。
出典:ロイター スウェーデンのクラーナはAIチャットボットが人員削減に役立つと述べている
具体的にはAIアシスタントが顧客対応の 2/3 を処理し、24 時間 365 日稼働。
人材コストを抑えつつ生産性 1.7 倍、収益性 U ターン(赤字→黒字)。となりました。
Microsoft:世界で従業員4%削減
また、Microsoftが世界で約4%(約9,100人)を削減すると発表。
米マイクロソフトは2日、世界の全従業員の4%に相当する社員をレイオフ(一時解雇)すると発表した。計算上は約9000人の削減となる。人工知能(AI)への投資を増やす一方でコストの抑制を進める。人の業務をAIが代替し始めたこともあり、テック業界全体でリストラが加速している。
出典:日経新聞 Microsoft、全社員4%の9000人解雇 巨大テックがリストラ加速
生成AI関連の巨額投資による固定費抑制が目的とされています。
生成AI向けクラウド投資(年8兆円規模)が利益率を圧迫し、人員合理化で補完するとのこと。
マイクロソフトの場合は生成AIへの投資をするための話がメインのリストラとなります。
パナソニックHD:1万人削減
パナソニックホールディングスは 2025年5月、生成AIを核とした業務効率改革と並行して国内外1万人(全従業員の約4.8%)を削減すると発表しました。
パナソニックホールディングスは9日、連結対象会社の従業員を1万人規模で削減すると発表した。グループ各社の業務効率の見直しなど経営改革を断行する。2026年3月期中にも国内・海外それぞれ5000人規模ずつ減らす。
出典:ロイター パナHDが今期中に1万人削減、純利益15%減 米関税影響含めず
直接生成AIの導入がリストラ理由とは発表していませんが、下記のような業務改革も同時に発表されていますのでその可能性が高そうです。
・OpenAI系モデルをベースにした社内アシスタントを18万人に展開し、1年で18.6万時間の工数を削減
・会計・調達・法務の帳票処理を生成AI+RPAで処理し、バックオフィス人員が余剰化
富士通:早期退職+ジョブ型雇用導入
富士通は 2024年度に3,031人が早期退職に応募。
AI・クラウド分野へ注力するため「ジョブ型人事+生成AI活用」へ舵を切り、既存業務の自動化で余剰となった中高年層を中心に人員整理を行いました。
こちらは直接の解雇ではなく 「早期退職+再配置」 を組み合わせた“見えにくい人材削減”が特徴ですね。
解雇をともわないリストラはある意味理想形ですね。
大企業だけの話ではない
大企業や海外だけの話ではありません。
日本の中小企業でも「全社員にAIツールを配り → 効果検証 → スリム化」という流れは十分起こり得ます。
特にバックオフィスを対象にした 生成AI、AIエージェント、RPAは規模の小さな組織ほど効果が顕著になる傾向があります。
中小企業が直面する3大リスク
今後中小企業が直面すると言われる雇用に絡んだ3大リスクがあります。
スキルギャップ拡大と採用難
生成AIの活用自体は難しくありません。
しかし、会社全体としてうまく運用するにはプロンプト設計・データ整備・検証スキルが必須。
地方の中小企業ほどそれらの該当人材が枯渇しがちです。
従業員エンゲージメント低下による早期離職
「自分の仕事がAIに奪われるのでは?」という不安が離職を誘発したり、モラールの低下を招きます。
特に社内コミュニケーション不足が火に油を注ぎがち。
生成AIやRPA、クラウドによる自動化などの導入はコミュニケーションを怠るとその傾向は顕著です。
地域社会・取引先へのレピュテーションリスク
生成AIで人が要らなくなったからといっても急なリストラは「人を大切にしない会社」という烙印を押され、採用ブランディングや会社のイメージにも波及しがちです。
リストラを最小化する5つの打ち手
それではどのように生成AIの導入をすすめればよいのでしょう?
職務再設計と再配置
まず考えたいのが職務の再設計です。
例えば以下のような再配置なんかも考えられます。
旧職務 | AI自動化例 | 新しい役割例 |
---|---|---|
経理:仕訳入力 | クラウド会計、AI-OCR+RPA、 | データ分析・資金繰り提案 |
カスタマーサポート:定型問合せ | AIチャットボット | CX改善企画・FAQ強化 |
在庫管理:棚卸入力 | Vision AI | 需要予測モデル運用 |
「業務」ではなく「価値」を基準に再設計すると、従業員はAIの補完戦力になります。
今まではやらなければいけないからやっていた「作業」を生成AIなどに任して、より上流階級の仕事にシフトすることが必要です。
「作業」はほとんど生成AIなどに代替え可能になってきています。
公的な助成金や給付金を活用したリスキリング
「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」を活用すれば、研修費の一部+賃金の一部が補填されます。
2025年度は中小企業特例枠が拡充。
生成AI研修も対象になっています。
さらに2025年10月からは教育訓練休暇給付金という制度もできます。

部分的アウトソーシング&業務委託で“雇用のクッション”を作る
一時的なアウトソーシングの活用も視野にいれましょう。
例えばAI導入初期は専門ベンダーやフリーランスに外注し、内製化フェーズで徐々に社員へ移管。
雇用調整助成金の活用で、研修中の人件費を抑制しながら雇用維持なんかも考えられます。
ステップ型コミュニケーション戦略
この手の話にはコミュニケーションがなによりも大事です。
具体的には以下のようなステップを踏むとよいでしょう。
1.全社説明会—AI導入目的と将来像を共有
2.部門別ワークショップ—具体的な職務変化を議論
3.個別面談+FAQ—不安を傾聴し、再配置プランを提示
透明性と双方向性がエンゲージメント維持の鍵となります。
社労士・弁護士と連携した法的リスクチェックリスト
解雇が絡むような話だけではなく、配置転換も含めて解雇回避努力義務、解雇予告、高年齢者雇用安定法 などのルールの確認が事前に必要となります。
また、労働条件変更時の就業規則改定フロー等も社労士や弁護士と確認しておくとよいでしょう。
まとめ|“AIと共存”する組織デザインを始める
今回は「生成AIでリストラ加速?中小企業が人員削減を防ぐ5つの処方箋」と題して生成AIとリストラの話を見てきました。
生成AIは避けられない技術革新ですが、以下の対策を行えば雇用崩壊は避けられます。
・再配置で価値創造型の職務へシフト
・助成金を梃子にリスキリング
・アウトソーシングでスムーズな移行期を確保
AIと共存する持続可能な組織を築きましょう。