産業廃棄物の収集運搬業の許可申請では、「決算書と納税証明書だけで足りる事業者」と「それに加えて、さらに詳しい経営資料が必要な事業者」に分かれます。
この違いを決めているのが、岐阜県の資料でいう「経理審査の上での追加提出書類」です。
この記事では、岐阜県の基準を例にしながら、
- どんな会社・個人事業主が「追加資料」を求められるのか
- 追加資料として何を出さないといけないのか
を、できるだけ会計用語をかみ砕きつつ整理していきます。
そもそも「経理審査の追加資料(経営診断書)とは?
産廃業の許可では、
「この事業者は、仕事をちゃんと続けていけるだけの経営体力(お金の基礎)があるか」
を行政がチェックします。これが「経理的基礎の審査」です。
通常は、
- 決算書(または確定申告書)
- 納税証明書
を見て判断しますが、数字だけでは判断しづらいケースでは、次の追加資料を求められます
原則として求められる追加資料
- 中小企業診断士の経営診断書
または、公認会計士が作る事業改善計画書
(今後5年間の利益の見通しと、その根拠が書かれているもの) - 金融機関が発行した「借入残高証明書」
- 金融機関が発行した「返済予定表」
つまり、
「いまの決算書だけでは、将来の見通しがはっきりしないので、専門家と一緒に作った事業計画と、実際の借入状況を見せてください」
という意味合いの追加書類です。
法人(会社)が追加資料を求められるケース
まずは会社(法人)の場合です。基準は大きく2つです。
決算が3期分そろっている会社
決算が3期分そろっている会社で、次のどちらかに当てはまると追加資料が必要です。
1つ目は「自己資本比率が3年連続で低い会社」。
- 直近3期すべてで、自己資本比率がずっと10%未満
(自己資本比率=会社の財産のうち、自分の資本が占める割合)
ただし、
- 直近3年間の「税引前利益」の平均がプラス
かつ - 直近の期の「税引前利益」もプラス
というように、最近3年しっかり利益が出ている会社は例外として、追加資料は不要です。
自己資本比率が低い状態が続いている会社は、
「万が一、売上が落ちたときに、持ちこたえる余力が薄い」
と見られやすくなるため、より詳しい経営診断や事業計画で補足説明が必要になります。
2つ目は「債務超過の会社」。
- 貸借対照表で、総資産より負債の方が大きい状態(債務超過)のとき、追加資料が必須になります。
債務超過は、
「会社の財産をすべて売っても、借金を返しきれない状態」
とイメージすると分かりやすいと思います。
決算が3期分そろっていない会社
決算が2期まで、あるいは創業したばかりで1期しかないなど、
- 営業実績が3年に満たない会社も、追加資料が必要です。
この場合は、「良い悪いに関わらず、判断材料が少ない」ので、
「これから安定して続けられる事業なのか」を事業計画などで補う
というイメージになります。
個人事業主が追加資料(経営診断書)を求められるケース
次に、個人事業主として申請する場合です。こちらも、
- 営業年数(申告年数)
- 青色申告か白色申告か
で基準が分かれます。
営業実績が3年に満たない個人事業主
個人事業主でも、事業を始めてから3年たっていない場合は、一律で追加資料が必要です。
- 青色申告か白色申告かは関係ありません。
- 「創業して間もない」=将来の数字が不透明なので、事業計画で補足してください、という扱いです。
青色申告の個人事業主(貸借対照表あり)
貸借対照表と損益計算書をつけて青色申告している場合(65万円控除・10万円控除の正式な青色)には、次のどれかに当てはまると追加資料が必要です。
1つ目:直近の期で「債務超過」になっている場合
2つ目:直近の期で「資産より負債の方が多い」場合
3つ目:直近の期では資産の方が多い、または同じくらいだが、
直近3年のうちに「所得税を納めていない年」がある場合
ここでいう「所得税を納めていない年」は、
- 事業の儲けが少なかった
- 控除などで結果的に課税所得が出なかった
といったパターンが含まれます。
「3年のうち1年でも、“税金0円”の年があると、追加資料の対象になる」と押さえておくと良いでしょう。
また、「債務超過」「資産」「負債」の計算方法についても資料内で定義されていますが、イメージとしては、
事業の資産と借金を整理してみたときに、借金側の重さが目立つかどうか
を見ていると考えてください。
白色申告・簡易な青色申告の個人事業主
白色申告や、貸借対照表をつけていない簡易な青色申告の場合は、「資産に関する調書」などをもとに次の点を見られます。
追加資料が必要になるパターンは、
- 直近の資産調書で、資産より負債の方が多い場合
- 資産の方が多い、または同じくらいだが、直近3年のうちに所得税を払っていない年が1年でもある場合
さらに、青色・白色いずれの場合も、
- 直近3年分の納税証明書で「未納税額がある」と判断された場合は、追加資料を求められる流れになっています。
元の資料はこちらで確認できます。
「うちは経営診断書が必要?」ざっくりセルフチェック
事業者の方がご自身で確認するなら、次の順番で見ると整理しやすくなります。
ステップ1:事業年数(申告年数)
- 確定申告(決算)が3期そろっていない
→ 会社・個人ともに、追加資料が必要になる可能性が高い
ステップ2:決算書・資産調書のバランス
- 直近の決算書や資産調書で、「借金(負債)の合計」が「資産の合計」より多い
→ 債務超過・負債超過の可能性が高く、追加資料の対象 - 資産の方が多いが、自己資本比率が10%を切っている年が続いている
→ 法人の場合は要注意(3年連続10%未満なら追加資料の対象)
ステップ3:直近3年の所得税の状況
- 3年のうち1年でも「所得税0円」の年がある
- または、納税証明書で未納税額が確認される
この場合も、「経営の安定性」に疑問が残ると見られやすく、追加資料が必要な側に入ります。
なお、県によって条件は異なります。愛知県、三重県は以下の記事を御覧ください。


追加資料を求められたときの進め方
追加資料の核になるのは、
- 中小企業診断士や公認会計士が作成する「経営診断書・事業改善計画書」
- 銀行から取り寄せる「借入残高証明書」と「返済予定表」
の3点です。
ポイントは、
- 数字だけでなく「説明のストーリー」を用意すること
- なぜ今の財務状態になっているのか
- 今後5年でどう改善していくのか
- 売上や経費の前提は現実的か
を、第三者にも伝わる形で整理しておく必要があります。
- 金融機関との関係を整理しておくこと
- どの銀行から、いくら借りているのか
- 元金返済や利息の負担は、今後の利益で十分まかなえるのか
といった点が、返済予定表と事業計画の整合性として見られます。
- 早めに専門家へ相談すること
- 診断書や事業計画は、作成に時間がかかります。
- 許可申請の締切ギリギリで相談すると、計画が甘くなりがちです。
おわりに
追加資料が必要になるかどうかは、
- 「この事業者に、産廃業を続けていくだけの体力があるか」を
- 決算書や納税状況から見て、分かりにくいかどうか
で判断されています。
もし、
- 新しく事業を立ち上げたばかり
- 赤字が続いている
- 借入が多く、自己資本が薄い
- ここ数年、所得税をほとんど払っていない
という状況であれば、「追加資料が必要な側」と考えて動いておく方が安全です。
早い段階で、中小企業診断士などに相談し、
- 許可担当者にも伝わる形で、事業の将来像と資金計画を整理しておく
ことが、スムーズな許可取得への近道になります。
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詳しくはこちらの記事をご覧ください。


